美術展と小説をススめる音楽家

古いもの好きの現代人

「老人と海」アーネスト・ヘミングウェイ

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 あらすじ

老人と海と、魚と少年。

「かれは年をとっていた。(中略)この男に関するかぎり、なにもかも古かった。ただ眼だけがちがう。それは海とおなじ色をたたえ、不屈な生気をみなぎらせていた」

 

序盤の本文から引用をさせていただいた。

 

この小説は、タイトルと序盤にある通り、老人が主人公となっている。

主人公、サンチャゴは生粋の漁師であった。しかし87日も不漁が続いていた。

それでも彼はめげることなく小舟に乗って一人で海へ出る。

しかし、残りわずかな餌が、想像を絶するほど巨大なカジキマグロを引っかけた。

奮闘する老いた漁師。

カジキマグロと老人は海の上で四日間を共にした末、老人が勝利した。

しかし海は老人に試練を与え続けていく……。

 

 

アメリカの作家、アーネスト・ヘミングウェイによる短編小説であり、ノーベル文学賞受賞に寄与した作品である。

世界的ベストセラーとされているが、日本人読者からは賛否両論が顕著にみられる作品でもある。

 

今回はその傾向を紐解きながら、個人的な見解と、それでもオススメする理由を書いていく。

 

 

 

個人的な見解

これぞ、老いた男 。

さて、以下はまずツイッターで述べてしまったことだが、改めてこちらにも載せる。

 

『深い舞台と役者だけど、要である葛藤は一人の人間的・個人的。そのギャップの共存が胸を締め付けました。 勇ましさすら切なかった。 これぞ老いた男、というキャラクターでした。とにかく切ない……』

 

 

 

こちらに書く前にこの呟きのリプに語り出してしまい、そこですでに自己解決してしまったのだが……。

改めて整理しながら述べる。

 

まず、自分の感想の呟きをしたあと、他の人の感想を眺めてみた。

すると、奮い立つ感情、を得た人が多くみられた。

私はこの小説を読んで最も感じたのは「切ない」という感情だ。

 

人それぞれの感性の違いが興味深かった。

なるほど、老いようとも奮闘する様に魅せられたということだろうか。

 

 

私の感じたことは、こうだった。


『話の序盤、老人と少年(青年)の会話で既に老いの虚無感が漂い、3日間の海上でも肉体や言動に老いが染み出ている。
自分を鼓舞する様にも、老人独特の老いが見える。港に帰ると老体が顕著に表れるし、全体を通した「老い」という枷と、諦めずに戦う男らしさが切なさを感じさせた』

 

 

老いた男が奮闘する様に、魅せられたというよりは同情をかけたのだ。

 

さらに私はこう述べた。

 

『「カッコいい」という感想は私は得なかったな。「頑張るなぁ」とぼんやり思いながら、同情をした。
これは私のなかの、戦う男、への感情が基盤になっているからだと思う』

 

「カッコいい」という感想が、思いのほかレビューのなかに多く見られたのだ。

 

たしかに、「カッコいい」とも見て取れる描写だった。

「ハードボイルド」という感想もしばし見かけたし、納得もできる。

 

しかしこの小説のオチを読んでみると、これは 本当に「カッコいい」「ハードボイルド」という表現が的確だろうか。

否定はしないが、この表現には疑問を持った。

 

また、「内容が薄い」「名作と言われているのにこんなものか」などといった、いわゆる「ツマラナイ」という感想も多く見えた。

 

これに関しては、福田恆存訳の版のもののあとがき『「老人と海」の背景』を読んでいただければと思う。

 

簡潔に説明すれば、

・この作品はアメリカ文学であるという前提

・ミドル・ジェネレイション(失われた世代)の作品であるということ

・男性的な作品である

ということだ。

 

小説本文のように「老い」という枷ではないが、

この作品自体にも枷があるモノなのだ。

 

 

それでも私はオススメする

 作品と読者。その需要と供給が合うかどうか

 この作品の深さは、読者にかかっていると思った。

 

いや、この作品だけにとどまらず、小説や芸術などといったものは大抵そうだろうが。

 

この作品は老いた男とカジキマグロの4日間の奮闘がメインになっている。

この描写から直接得られることは少ないだろう。

 

例えるならば、絵本のようなものだ。

書き手は直接の表現をなるだけ避け、読者の想像力を広げさせる。

なにを想うも自由。

描写に魅せられるか、主人公から学ぶか、憧れるか、呆れるか。

それらは読者自身にかかっている。

 

(もちろんこれが一概に言えるわけではないという理解もした上での例だ)

 

前述でも取り扱った、「内容が薄い」「名作と言われているのにこんなものか」といった感想は、これに当てはめずに読んだのではないだろうかと予想をした。

 

いや、たしかに私自身も、「老人と海というテーマなのに、暗喩の手法ではないのか」

と面食らいもした。一瞬だが、内容が薄いとも思った。

 

しかし、最後の最後まで何かの暗喩ではないかと期待したが、作者はそれが狙いではないと私は結論付けた。

 

素のまま、で読むのが一番狙い通りなのではと思った。

 

考えてみてほしい。

 

生粋の漁師とはいえもう若くはない体で、

87日間も不漁が続いたのに、

「今日は自信がある」と言って海に出ていく。

 

人間の不屈の精神が垣間見れるではないだろうか。

そしてそれは全ての現代人が果たして持ち合わせている精神だろうか?

 

作品の供給と、読者の需要が合致したとき、この小説はとても いきる 物語になるのではないだろうか。

 

 

~・~・~ 

コロナやオリンピックで賑わっているが、

私はステイホームしながら読書をする日々。

 

暑さも厳しくなっておりますし、

皆さまもお身体に気を付けてお過ごしください。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 

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